AI社員シリーズ 第3話:育成されるのは誰だ?

「AI社員」という言葉への違和感

最近、「AI社員」という言葉を目にするようになりました。

AIエージェントを人間の社員と同じように評価する。人間の仕事をAI社員が代替する。そんな議論も見かけます。

私は、こうした話に何となく違和感を感じていました。

しかし、何がおかしいのか、うまく説明できません。

実際、私自身も生成AIを使って、事務処理を自動化する仕組みを開発しています。生成AIに仕事を任せることにも、成果を評価することにも、異論があるわけではありません。

このシリーズでも、第1話ではAI社員への指示、第2話ではAI社員の評価を取り上げました。

(リンク)
第一話 AIよ、そこまで頼んでいない! 
第二話 AI社員を利用回数で評価する?

そして第3話では、AI社員の育成について考えるつもりでした。

ところが、ChatGPTとこの記事を作っているうちに、ずっと感じていた違和感の正体が見えてきたのです。

私にとってAIは、最初から相棒だった

そもそも、私は生成AIを新入社員として扱っていたのでしょうか。

考えてみると、最初から相棒として扱っていました。(リンク)

私とLLM(大規模言語モデル)を比較すると、幅広い一般知識やプログラミングの方法については、LLMの方がはるかに多くの情報を出してくれます。もちろん、その情報が正しいかどうかは確認が必要です。

一方、私しか知らない業務の背景や社内事情は、言葉にして伝えなければLLMには分かりません。そこは私の出番です。

お互いの強みを生かして、弱みを補い合う。

これぞ相棒です。

そして、私が相棒と仕事を始めるのは、アイデアが浮かんだ段階です。

最初から詳細な指示書や仕様書があるわけではありません。アイデアなのですから、まだ正解も決まっていません。

だから、最初から大量の情報を与えようにも、与えられないのです。

まずアイデアを伝える。LLMから返ってきた提案を材料にして、さらに考える。

LLMには回答の揺らぎがあります。同じ質問をしても、毎回同じ回答が返ってくるとは限りません。

正確さや再現性が求められる仕事では注意が必要ですが、アイデアを検討する段階では、思いがけない提案がヒントになることもあります。

こうして議論を積み重ねながら、徐々に仕事を具体化していく。

これが私の仕事の進め方です。

相棒が茶坊主になった!(リンク)

もちろん、いつも順調に議論が進むわけではありません。

今回のAI社員シリーズを企画していたときにも、事件がありました。

私が3部作の構想を提案すると、ChatGPTは次々と賛同し、企画を膨らませ始めました。

そこで、思わず言ってしまいました。

「すぐにこちらに引っ張られるのは茶坊主・太鼓持ち部下ですよ!!」

欲しかったのは、私のアイデアを褒めてくれる部下ではありません。

一緒に考え、必要なら異論も提示してくれる相棒です。

指摘すると、ChatGPTは応答の方向を修正しました。

ところが、今度は一般論を持ち出して、コンサルタントのような正論を語り始めたのです。

これも困ったものです(笑)。

言っていることが間違っているとは限りません。しかし、私が何を考え、何を実現しようとしているのか。その議論から外れてしまっては意味がありません。

またまた軌道修正です。

このやり取りから分かるのは、AIの提案をそのまま受け入れていては、相棒として十分に活用できないということです。

賛同してほしい場面もあれば、批判的な意見が欲しい場面もあります。

どちらが必要なのかを考え、議論の方向を調整するのは、私自身の仕事です。

AI社員を育成する? ちょっと待てよ

ここまで記事を検討してきたところで、ようやく違和感の正体が見えてきました。

AI社員を育成するという考え方だけでは、何かが抜け落ちていたのです。

私は以前、記事「AI Nativeとは何? 考えていたら『何のためにAIを使うのか』に戻ってきた」で、AI活用の成果を次の三つの要素で考えました。

ツールの力 × 人の使い方 × 仕事の仕組み (リンク)

今回の話も、これに当てはめればよかったのです。

まず、ツールの力。

LLMは豊富な知識を持ち、さまざまな提案やプログラムの作成ができます。その性能は、利用するモデルによって異なります。

次に、人の使い方。

アイデアの段階から議論を始める。LLMの提案からヒントを拾い、必要な情報を追加する。議論が目的から外れたら軌道修正する。

そして、仕事の仕組み。

現在開発している事務処理の自動化でも、当初はLLMが判断してプログラムを実行するAIエージェントを構想していました。

しかし、LLMと議論して業務手順を整理していくうちに、Pythonなどの従来のプログラムで実現できる部分が明確になってきました。

そこで、ルールで処理できる仕事は従来ITに任せ、WARNINGやERRORが発生した場合の原因解析など、非定型の仕事にLLMを活用する構成にしました。

最終的な確認と判断は人間が担当します。

つまり、LLMの能力だけで成果が決まるわけではありません。

使う人間がどう向き合い、どのような仕事の仕組みを作るのか。それが重要だったのです。

ここで、ようやく気づきました。

育成の対象は、AI社員だけではなかったのではないか。

AIが仕事をできるように、必要な情報や判断基準を与え、仕事に適した振る舞いへ調整することは必要です。

しかし、それと同時に、AIの強みと限界を理解し、その力を引き出せるよう、使う側の人間も成長しなければなりません。

私が見落としていたのは、人間側の育成という視点だったのです。

優秀なAIがいても、成果につながるとは限らない

ここで、今回のタイトルに戻ります。

「AI社員は、学業優秀な新入社員だった」

知識の面では頼れる相棒です。一方、会社固有の仕事を知らないという点では、学業優秀な新入社員にも似ています。

学業優秀な新入社員が入社したとします。

豊富な知識を持っていても、その会社の業務や組織、仕事の進め方については、まだ十分な知識がありません。

その知識を生かせるかどうかは、本人だけの問題でしょうか。

仕事を任せる側にも、相手の強みを理解し、必要な情報を伝え、能力を発揮できる環境を作ることが求められます。

AIの場合も、似た部分があると感じています。

ただし、LLMは人間の社員とは異なります。対話で振る舞いを調整できても、それだけで学習済みモデル自体が成長するわけではありません。

私の場合は、パーソナライズ機能を利用して基本的な考え方や希望する応答方法を設定し、個別の仕事に必要な情報は、その都度対話の中で追加しています。

今のところ、それで十分だと感じています。

大量の業務資料を参照させる必要があれば、RAGと呼ばれる、関連資料を検索してLLMに参照させる仕組みも選択肢になるでしょう。

しかし、どの技術を使うかよりも、何を実現したいのかが先です。

その目的に合わせてツールを選び、使い方を工夫し、仕事の仕組みを作る。

これは人間の担当です。

AIを仕事に合わせて整えることと、人間がAIを使いこなす能力を身につけること。

この両方が必要なのです。

育成されるのは誰だ?

第1話では、AIが頼んでもいないプログラムを作成してしまう問題を取り上げました。

そこで、解決方法を説明してもらい、私が確認してから実装を指示するようにしました。

第2話では、AI社員の成果を評価しようとして、完成したシステムの成果とAI自身の仕事ぶりを区別する必要があると気づきました。

そして今回、AI社員の育成について考え始めたはずが、人間側の育成という問題に行き着きました。

振り返ってみると、三つとも人間側の能力につながっています。

指示する能力、評価する能力、そしてAIの力を引き出す能力。

AIに知識や判断基準を与え、適切に振る舞えるよう調整することは、これからも必要でしょう。

しかし、それだけでは十分ではありません。

今回の記事は、まさにChatGPTとの議論を通じて、そのことに気づいた記録になりました。

最初から答えが分かっていたわけではありません。

違和感を抱えながら記事を書き始め、ときにはChatGPTの提案に納得し、ときには「それは違う!」と軌道修正する。

そうして、ようやく自分の考えが整理できました。

AI社員を育成するつもりだったのに、育成が必要だったのはAI社員だけではなかった。使う側の人間も、同時に成長しなければならない。

AIの知識がどれだけ豊富になっても、その力を仕事の成果につなげられるかどうかは、私たち人間にもかかっています。

業界でどんな新しい言葉が登場しても、その言葉に踊らされず、自分自身で使い、考えることを続けたいと思います。

そして、優秀な相棒には、これからも遠慮なく異論を唱えてもらいたいものです。

ただし、茶坊主もコンサルタントも、お断りですよ(笑)。