前回の記事では、自分たちの得意なところから、雪や氷に対して何ができるのかを考えてみたことを書きました。
関連記事1:得意なところから考えてみた。既存技術を見直すと、気になることが見えてきた
関連記事2:『歩道を何とかしたい』と考えていた。でも、やりたいことは少し違った

では、それをどうやって始めるのか。

ここまでのことを振り返ってみると、最初にやったことはとても単純でした。

まず、自分が動く。

これがないと、何も始まりません。

そして実際に動いてみると、思っていたところが動かなかったり、思いがけないところから別の人が動き始めたりしました。

今回は、この仕事を始めた頃から現在までを少し振り返ってみます。

最初にやったのは、身近な人に話すこと

そもそものきっかけは、仕事の中で地域課題に取り組むという大きな方向が示されたことでした。

ただ、「地域課題」と言っても、ずいぶん大きな言葉です。

何が地域課題なのか。

誰が困っているのか。

何を解決するのか。

そこまで具体的に決まっているわけではありませんでした。

この状態なら、誰かが具体化するまで待つこともできます。

担当が決まるまで様子を見ることもできます。

それも普通の対応だと思います。

でも、私は、

「これ、面白そうやな。」

と思ってしまいました(笑)。

そこで最初にしたのは、大きな計画を作ることではありませんでした。

身近な関係者に、

「こんなことを考えている。」

「まず少し調べてみたい。」

と話してみる。

これが最初の一歩でした。

幸い、地域課題に取り組むという大きな方向とは合っています。

まずは、自分で動ける範囲から始めることにしました。

最後は、どんな仕組みが必要なのだろう

動き始める一方で、最終的にはどんな仕組みが必要になるのかも考えました。

自分たちが得意な技術だけを見て、

「この技術を使いたい。」

と言っても、仕事にはなりません。

まず解決すべき課題があって、そのために技術を使う。

そう考えると、技術を考えるだけでは足りません。

実際に地域で暮らしている人。

地域の課題に向き合っている行政。

技術的な可能性を一緒に考えてくれる専門家。

そして、それを実際に形にする企業。

そこで、必要な人たちを**「産・官・学・民」**に分けて考えてみることにしました。

ここでいう「民」は、実際に地域で暮らしている人や、地域に関わる組織です。

ところが、こうして整理してみると、一つ大事なことに気づきました。

接点があることと、一緒に動けることは違う。

ということです。

「産」があるから動く、わけではなかった

自分たちの得意な技術について相談できる人はいます。

だから最初は、「産」は何とかなるだろうと思っていました。

ところが、実際に話してみると反応は慎重でした。

考えてみれば当然です。

本当にニーズがあるのか分からない。

技術的にできるのかも分からない。

誰が必要としているのかも、まだ見えていない。

そんな状態で、

「一緒にやりましょう。」

と言われても困るでしょう。

人がいることと、その人が動いてくれることは別でした。

さらに、もう一つあります。

私たちは自分たちの得意な技術について考えることはできても、歩道そのものを作ることはできません。

実際に歩道を作る側との具体的なつながりもありません。

「産」と一言で言っても、実際にはいろいろな役割の人が必要でした。

「民」と話すことと、一緒に動くことも違った

これまでも、現地で暮らしている人から雪や歩道について話を聞いてきました。

それによって、私自身が気づかなかった困りごとを知ることもできました。

ただ、個人として話を聞くことと、今回考えている取り組みに継続して関わってもらうことは別です。

そこで、地域と仕事上のつながりがある組織にも相談してみました。

話は丁寧に聞いていただけました。

ただ、そこからすぐ具体的な取り組みへ進む雰囲気ではありませんでした。

こちらが、

「地域に関わっているのだから、このテーマにも関心があるだろう。」

と思っても、相手も同じように考えているとは限りません。

これも、実際に動いてみて分かったことでした。

「官」への糸口は、思いがけないところから見つかった

行政についても、これまでセミナーや会合などを通じて話を聞く機会はありました。

ただ、情報を集めるために話を聞くことと、今回考えている取り組みについて具体的に相談することは違います。

どうやって、その接点を作るか。

当初は、大学などの専門家とのつながりから行政へ話をつないでもらう方法を考えていました。

ところが、思いがけないところから糸口が見つかりました。

以前の仕事でつながりのあった方との縁から、今回のテーマについて行政と話ができる可能性が出てきたのです。

「そっちからつながるの?」

という感じでした。

長く仕事をしていると、昔のつながりに思わぬところで助けられることがあります。

今回は、まさにそれでした。

そして、ここからもう一つ面白いことが起きました。

行政と具体的な話ができる可能性が見えてくると、それまで慎重だった技術側でも、技術的な検討について話が進み始めました。

最初に考えた順番とは違います。

でも、

一つが動くと、別の一つが動く。

そんなことが実際にあるのだと実感しました。

「学」は、話を聞く段階から次へ

大学の先生方からも、これまで地域課題について話を聞く機会はありました。

ただ、今回考えている技術について一緒に検討してもらう関係は、まだこれからです。

そのための手は打ち始めています。

私自身がこの分野の専門家ではありません。

自分では「面白い」と思っていても、専門家から見れば、とんでもなく頓珍漢なことを考えている可能性もあります(笑)。

だからこそ、本当に技術的な可能性があるのかを専門家と一緒に考える段階が必要です。

そして、その先にはもう一つ期待していることがあります。

私には、実際に歩道を作る会社とのつながりがありません。

行政や大学との関係が深まれば、その分野の専門家や企業につないでもらえる可能性もあるのではないか。

今のところ、そんなことを考えています。

もちろん、そんなに都合よく進む保証はありません。

そもそも、どこまでできるのか分からない

さらに、この取り組みには根本的な不確実性があります。

考えている技術が、どこまでの性能を出せるのか分かりません。

期待する性能が得られれば、歩道そのものへの展開を考えられるかもしれません。

そこまで届かなければ、もっと限定した使い方になるかもしれません。

雪や氷に対して期待している作用そのものが、十分に得られない可能性もあります。

そうなれば、別の使い方を考えます。

それでも難しければ、別の地域課題に使えないかを考えることになるかもしれません。

最初に歩道から始まった取り組みですが、以前の記事にも書いたように、私がやりたいのは「歩道を作ること」そのものではありません。

雪国で、路面が原因で転んだり、滑ったり、つまずいたりせず、安全に移動できるようにしたい。

その目的に近づけるなら、手段は変わってもいいと思っています。

つまり、今の段階では最終的にどこへ行くのかも分かりません。

不確実性の高い取り組みです。

だからこそ、最初から大きくしない方がいいと思っています。

ベテランらしく、のらりくらりと

ここまでを振り返ると、最初に考えた通りには、ほとんど進んでいません(笑)。

動くと思ったところが動かない。

難しいと思っていたところから、思わぬ糸口が見つかる。

一つが動くと、別の人が動き始める。

だったら、最初から全部決めなくてもいい。

できることを一つ試す。

話せる人を一人増やす。

そこで分かったことから、また次を考える。

うまくいかなければ、少し方向を変える。

そして、まだ分からない段階では、大きな約束をしない。

ベテランが、のらりくらりと小さく積み上げていく。

こういう先の見えないテーマには、そのくらいがちょうどいいのかもしれません。

そして、何より面白い

ここまで書くと、ずいぶん面倒な仕事をしているように見えるかもしれません。

でも、本人は結構楽しんでいます(笑)。

65歳までの残り3年間。

これまでやったことのないことをやってみる。

知らない分野の文献を読む。

知らない人に会う。

思ったように進まなければ、別の手を考える。

昔の仕事でできたつながりが、思いがけないところで役に立つ。

そして、長年仕事をして身につけた「人や組織との付き合い方」も使ってみる。

技術だけではなく、ベテランならではの仕事の進め方そのものを試している感じがして、これも面白いのです。

3年後、歩道までたどり着いているのか。

雪の別の課題に取り組んでいるのか。

まったく違うところへ行っているのか。

今の私には分かりません。

でも、それでいいと思っています。

大きく構えて動けなくなるより、まず一つ動いてみる。

そこから次の一手を考える。

さて、3年後にどこまで行っているのでしょうか。

私自身、それを見るのを楽しみにしています。