先人たちは、こんなに考えていた。それでも、なぜ歩道は今でも滑るのだろう?
まずは、先人たちの足跡をたどってみることにしました
これまで、雪国の道路や歩道の問題に取り組むために、技術の地図を描いてきました。(リンク)
どんな技術があるのか。何を目的に開発され、どのような仕組みで機能するのか。そして、どこまで実用化されているのか。
そんなことを調べながら技術の地図を整理していると、一つ気づいたことがありました。
路面の凍結を抑えたり、滑りにくくしたりする技術には、すでに実用化されているものがいくつもあるのです。
一方、関心を持っている凍上対策については、まだ調べなければならないことが多くあります。
さて、どこから手を付けましょうか。
せっかく実用化されている技術があるのなら、まずはそこから理解を深めた方がよさそうです。
何ができるのか。どんな条件で効果を発揮するのか。そして、どんな課題が残っているのか。
既存技術を理解せずに、新しいことを考えても仕方がありません。
そこで、まずは凍結抑制や防滑に関する技術について、過去の研究をたどってみることにしました。
技術の名前や仕組みを調べるだけでなく、先人たちは何を課題とし、どのように解決しようとしてきたのか。
そんな視点で、研究の歴史を調べ始めました。
こんなに多くの人が取り組んでいたのか!(リンク)
調べ始めて、驚きました。
凍結抑制舗装の研究は、少なくとも1990年代には、さまざまな形で進められていました。
舗装に塩化物を混ぜて凍結を抑える。
ゴムの弾性を利用して、路面にできた氷を割ったり、剥がしたりする。
舗装表面に凹凸を設けて、滑りにくくする。
実に多くの工夫が試されていたのです。
しかも、材料を開発するだけではありません。
実際の道路に施工して効果を確かめる。耐久性を調べる。どんな条件で効果が発揮されるのかを評価する。
さらに、効果をどのように測定すればよいのかという、評価方法そのものも研究されていました。
歩道を対象にした取り組みもありました。
1999年度には、北海道の標茶町で、廃タイヤ由来のゴムを使った弾性舗装ブロックが歩道に試験施工されています。
施工上の問題だけでなく、周辺住民の評価も調べられていました。
2008年には、ゴムチップを利用した歩道用凍結抑制弾性舗装の研究も発表されています。
濡れたときや凍結時のすべり抵抗、舗装の接着性、温度変化による膨張や反り、接着剤の価格まで検討されていました。
おやおや。
歩道に弾性材料を使って、滑りにくくできないだろうか。
そんなことを考えていたのですが、20年以上前から、同じようなことを考え、実際に試していた人たちがいたのです。
知らなかったのは、私の方でした(笑)。
技術の歴史ではなく、課題の歴史だった(リンク)
最初は、どんな技術が、いつ開発されたのかを調べていました。
ところが、研究を年代順に並べてみると、少し違ったものが見えてきました。
研究者たちが取り組んできた課題です。
調べた範囲では、早い時期から、舗装そのものに凍結抑制機能を持たせようとする研究が進められていました。
しかし、効果が確認できても、それで終わりではありません。
その効果は、どのくらい続くのでしょうか。
実際の道路でも同じように機能するのでしょうか。
気温や雪氷の状態が変わったら、どうなるのでしょう。
そもそも、効果をどうやって測定すればよいのでしょうか。
その後の研究では、こうした課題にも取り組まれていました。
さらに、施工方法、コスト、利用者の評価など、実際に使うための検討も行われています。
もちろん、すべての研究が一つの流れでつながっているわけではありません。それぞれの研究者や企業が、異なる問題意識で取り組んできたものもあります。
それでも、個々の研究を眺めるだけでは気づかなかったことが見えてきました。
技術の歴史を調べていたつもりが、いつの間にか、課題の歴史を調べていたのです。
それでも、なぜ歩道は今でも滑るのでしょう?
ここで、素朴な疑問が湧いてきました。
これほど多くの研究者や技術者が、長い年月をかけて取り組んできた。
実際に施工された技術もあります。
それでも、なぜ雪国の歩道には、今でも滑りやすい場所が残っているのでしょうか。
もちろん、過去の研究によって改善された場所もあるでしょう。現在も使われている技術もあります。
決して、先人たちの取り組みが無駄だったと言いたいわけではありません。
むしろ、その逆です。
これだけ多くの人が取り組んできたのに、問題が残っている。そこには、何か簡単には解決できない理由があるのではないでしょうか。
例えば、ゴムの弾性を利用して氷を破壊する技術があります。
車道なら、車両の荷重によって舗装が変形し、氷を割ることが期待できます。
では、歩道ではどうでしょう。
歩行者の荷重でも、同じように機能するのでしょうか。
過去には歩道向けの研究も行われていますから、まったく検討されていないわけではありません。
ただ、どのような条件で効果を発揮し、どこに限界があるのか、まだ十分に理解できていません。
また、室内試験で性能が確認されても、実際の歩道で雨や雪にさらされ続けた場合はどうでしょう。
施工直後は良くても、何年も使い続けたらどうなるのでしょうか。
除雪作業で傷んだり、補修が難しくなったりしないのでしょうか。
調べれば調べるほど、疑問が増えてきます。
先人たちは、どんな壁にぶつかったのでしょう?
恐らく、先人たちは実用化や普及の過程で、さまざまな課題に向き合ってきたのでしょう。
ただ、その課題が何だったのか、どこまで解決されたのかは、まだ十分に分かっていません。
材料の性能に限界があったのでしょうか。
技術的には可能でも、施工費や維持管理費が高く、広く使うことが難しかったのでしょうか。
あるいは、車道では有効な技術でも、歩道では求められる条件が違っていたのでしょうか。
もう一つ、気になることがあります。
研究者が解決しようとした問題と、実際に歩く人が困っている問題は、きちんと一致していたのでしょうか。
例えば、繰り返し荷重を与えることで氷膜を破壊できたとしても、歩行者にとっては、最初の一歩から滑りにくいことが重要です。
もちろん、そうしたことも先人たちは考えていたのかもしれません。
まだ、そこまで調べ切れていないだけでしょう。
現時点で、これが技術の限界だとか、これが普及しなかった理由だとか、決めつけるつもりはありません。
そもそも、どこまで普及しているのかさえ、十分に分かっていません。
だからこそ、もう少し調べてみたいのです。
壁があるなら、越えてみたい
さて、ここからです。
これだけ長い間、多くの人が研究してきたのですから、簡単に解決できる問題ではないのでしょう。
それでも、私は壁を越えてみたいと思っています。
もちろん、壁の正体も分からないのに、越えられると断言するつもりはありません(笑)。
ただ、20年前には難しかったことが、今も難しいとは限りません。
材料も、施工技術も、評価方法も進歩しています。
これまでとは違う技術を組み合わせることで、新しい可能性が生まれるかもしれません。
一方で、材料を変えるだけでは解決できない問題もあるでしょう。
施工方法を工夫する必要があるのかもしれませんし、維持管理の仕組みを見直す必要があるのかもしれません。
そもそも、問題の捉え方を変える必要があるのかもしれません。
大切なのは、これまで実用化や普及を難しくしてきた課題を知らずに、同じ方法を繰り返さないことではないでしょうか。
すでに分かっていることは、使わせてもらう。
うまくいかなかった事例があるなら、その理由を学ぶ。
そして、今なら越えられる可能性があるのなら、挑戦してみたい。
そんなに都合よくブレークスルーが見つかるとは思っていませんが、最初から諦めるつもりもありません。
さて、壁の正体を探しに行きましょうか
今回、過去の研究を調べたことで、疑問が減るどころか、かえって増えてしまいました。
でも、少し面白くなってきました。
これまでは、どんな技術があるのか、誰と取り組めそうなのかを調べてきました。
技術の地図を描き、人の地図を描き、ようやく始める場所が少し見えてきたところです。
今回、先人たちの研究をたどったことで、次に調べたいことも見えてきました。
材料の性能だけでなく、施工や維持管理、実際の利用環境まで含めて、何が課題になってきたのか。
こればかりは、論文を読むだけでは分からないこともありそうです。
研究者だけでなく、実際に舗装を施工する人、道路を維持管理する人、そして歩道を利用する人の話も聞いてみたいと思います。
先人たちが積み重ねてきた研究を、最初からやり直すつもりはありません。
まずは、どこまで分かっていて、何がまだ分かっていないのか。
そして、実用化や普及の過程で、どんな課題があったのか。
それを知ったうえで、今なら何ができるのかを考えたいと思います。
さて、どんな壁が待っているのでしょうか。
少々手ごわそうですが、だからこそ面白そうです(笑)。
参考資料
- 「凍結抑制舗装」に関する1997年の研究論文(J-STAGE)
- 1999年度の標茶町における弾性舗装ブロックの試験施工に関する研究(寒地土木研究所)
- 「歩道用凍結抑制弾性舗装の実道への適用に向けて」(2008年、土木技術資料)